提案には興味を示していたのに、その後の連絡が途切れる。あるいは、登録ページまで来たのに手続きが完了しない。こうした場面は、どの事業にも起こります。
本稿では、この停滞を意欲の問題としてではなく、決めるまでにかかる手間の問題として整理します。読み終えたときに、自分の導線から減らせる一つが見つかっている状態を目指します。
ボタンの直前に必要な材料については、記事「CTAとは?押されないボタンに共通すること」で扱いました。本稿はその先、押した後も含めた手間の側に軸足を移します。
興味はある。それでも動かない
断られたのではなく、途切れている
「検討します」と言われたまま、連絡が来なくなる。この場面でまず確かめたいのは、それが断りではないという点です。
断るのであれば、その旨の連絡が来ます。連絡が来ないというのは、判断そのものが行われていないという状態でしょう。
実際、後日その相手に会うと、競合を選んだわけでもなく、必要がなくなったわけでもない、ということが少なくありません。ただ、決める作業が最後まで進まなかっただけなのです。
同じことが、画面の上でも起きています。登録フォームを開いたまま閉じた人は、こちらのサービスを評価して見送ったわけではありません。
この違いは、記録の残り方にも表れます。断られた場合は理由が残り、次への材料になります。
途切れた場合には、何も残りません。数字の上では同じ一件の不成立でも、こちらの手元に届く情報量はまったく違うのです。
意欲の不足として片づけると、打つ手がなくなる
この停滞を「本気度が足りなかった」と解釈すると、話はそこで終わります。相手の内心は変えられないため、次に打つ手が残らないからです。
そこから導かれるのは、もっと熱心に伝える、もっと強く勧めるという方向でしょう。ただ、この方向には限界があります。
熱意で動かせるのは、もともと動く手前まで来ていた人に限られるからです。意欲の側だけを見ていると、打ち手が「押しを強くする」の一つに固定されてしまいます。
本稿で見たいのは、もう一つの側です。その人が動かなかった理由を、意欲ではなく、動くまでにかかる手間の量として捉え直します。
動かない理由は、意欲ではなく手間の側にある
坂の勾配と、荷物の重さ
人が坂を登るかどうかは、登りたい気持ちの強さだけでは決まりません。勾配の急さと、背負っている荷物の重さも同じくらい効いてきます。
同じ人が、同じ日に、同じ坂の前に立っても、手ぶらのときと荷物を抱えているときでは判断が変わります。変わったのは意欲ではなく、条件のほうです。
行動についても、同じ構造が働きます。やる気の総量が同じでも、目の前の手間が小さいほど、実際に進む確率は上がるのです。
動くかどうかは、意欲と手間の引き算で決まります。意欲を足すより、手間を引くほうが、こちらから触れる範囲にあります。
押すより、軽くするほうが速い
この二つは、どちらも結果に効きます。ただし、扱いやすさがまったく違います。
意欲は相手の内側にあり、こちらが直接動かせません。伝え方を変えて働きかけることはできますが、効いたかどうかも分かりにくいものです。
一方、手間はこちらの側にあります。画面の数も、入力欄の数も、こちらが決めて、こちらが減らせます。
そして、減らした効果は数えられます。触れる場所にあり、変えた結果が確かめられる。この二点だけでも、先に手をつける理由は十分でしょう。
もう一つ、煽って動かす方法との違いも押さえておきます。急かして動かした相手は、動いた後に「なぜ決めたのか」を自分で説明できません。
手間を減らして動いた相手は、自分の判断で進んでいます。同じ一件でも、その後に続く関係の質が変わってくるのです。
行動を止めている、三つの手間
選択肢が多い
一つ目は、選ぶ作業そのものです。料金の種類が三つあり、支払い方法が二つあり、開始時期が選べる。それぞれは親切のつもりで用意されています。
ところが、選択肢が増えると、決める前に比較という作業が挟まります。比較には材料が要り、材料を集めるには時間が要ります。
時間が要るものは、その場で終わりません。「後でゆっくり比べよう」という判断が挟まった時点で、その日の行動は起きなくなります。
ここで効くのは、選択肢を減らすことか、選び方の指針を先に示すことです。「初めての方はこちら」の一行があるだけで、比較の作業は省略されます。
選択肢を減らすことに抵抗があるなら、後から変えられると添える方法もあります。選ぶ負担の重さは、その選択が取り返しのつくものかどうかで変わるからです。
後で変更できると分かっていれば、読者はとりあえず一つを選べます。逆に、ここで決めたら固定されると感じれば、選ぶ前に調べ始めます。
入力と手順が多い
二つ目は、実際に手を動かす量です。入力する欄の数、通過する画面の数、確認のためのやり取りの回数がこれにあたります。
この手間は、読者にとって見積もりやすいという特徴があります。フォームを開いた瞬間に、長さが目に入るからです。
そして見積もった量が大きければ、その場では始めません。始めなかったものは、後から再開されにくいものです。
なぜ欄が増えるのかと言えば、こちらの側に理由があります。後で使うかもしれない情報を、この機会に集めておきたくなるからです。
入力欄は、こちらの都合で増え、読者の負担として支払われます。いま要らない情報は、後の工程で聞き直すこともできます。
間違えたらどうなるかが分からない
三つ目は、失敗したときの見通しです。押した後に取り消せるのか、間違えたら連絡が来るのか、途中でやめられるのか。
これらが書かれていないと、読者は慎重になります。慎重さは、手を止めるという形で現れます。
この手間は、他の二つと違って作業量ではありません。それでも、決めるまでの時間を確実に伸ばします。
そして厄介なことに、この不安は口に出されません。「取り消せますか」と質問してくれる人は、ごく一部です。多くの人は、確かめる代わりに、静かに手を止めます。
この三つ目に対処する費用は、ほとんどかかりません。すでに決まっている事実を、読者から見える場所に書くだけだからです。
取り消しの可否、連絡が来るまでの日数、途中でやめたときの扱い。どれも社内では自明で、外には書かれていないという状態がよくあります。
三つの手間を並べると、着手の順番も見えてきます。費用がかからず効果が確かめやすいのは三つ目で、次が二つ目、最も判断を要するのが一つ目です。
あなた自身も、フォームを閉じたことがある
嫌いになったわけではない
ここまでの話は、自分が買い手の側に回った経験を思い出すと確かめられます。何かを申し込もうとして、入力欄の多さに手が止まった経験はないでしょうか。
そのとき、その会社を嫌いになったわけではありません。商品が悪いと判断したわけでもないはずです。
ただ、いま埋めるには面倒だと感じて、後にしようと思った。それだけのことでしょう。
そして、その「後で」はほとんど訪れません。自分がしていることを、読者もしています。この対称性を思い出すだけで、手間の重さは見積もり直せます。
閉じた理由は、あとから思い出せない
もう一つ確かめたいのは、閉じた理由を自分でも覚えていないという点です。数日後にその会社の名前を聞いても、なぜやめたのかは出てきません。
つまり、離脱した読者に理由を尋ねても、正確な答えは返ってこないということになります。本人の中にも記録が残っていないからです。
だとすれば、原因を聞き取りで突き止めようとするより、構造の側を減らすほうが速いでしょう。手間は、聞かなくても数えられます。
この非対称は、改善の進め方そのものを変えます。理由が分からない領域に時間を使うか、数えられる領域から着手するか、という違いです。
もちろん、聞き取りに意味がないわけではありません。ただ、聞ける相手は最後まで進んだ人に偏るため、途中で止まった人の事情は集まりにくいのです。
「簡単にすると安っぽく見えないか」という疑問
価値は手続きの重さでは伝わらない
ここまで読んで、手続きを簡単にすると商品まで軽く見えるのではないか、と感じた方もいるはずです。この懸念は自然なものだと思います。
ただ、価値が伝わる場所と、手続きが行われる場所は別です。読者は、入力欄の多さから中身の重厚さを推し量ってはいません。
手続きを重くして守られるのは、価値ではなく、こちらが手間をかけたという記憶のほうでしょう。読者にとっては、その手間は自分が支払うものであって、受け取るものではありません。
むしろ、丁寧に説明したうえで手続きが軽い状態は、相手への配慮として受け取られます。重さを演出する必要は、どこにもないのです。
ふるいをかける場所を、入口の後ろへ移す
もう一つの疑問は、簡単にすると冷やかしが増えるのではないか、というものでしょう。実際、入口を軽くすれば、判断の手前にいる人も入ってきます。
ここで考えたいのは、ふるいをどこにかけるかという配置の問題です。入口を重くしてふるうやり方は、本気の人まで一緒に止めてしまいます。
ふるいをかける場所は、入口ではなく、その後の説明の側へ移せます。入ってもらってから、合う人と合わない人を丁寧に分けるという順序です。
この配置にすると、合わなかった人にも理由を伝えられます。入口で黙って帰した相手には、何も伝わりません。
加えて、入口を軽くしたときに増えるのは冷やかしだけではありません。判断の材料がまだ揃っていない、これから育つ相手も含まれています。
その人たちを入口で止めてしまえば、育つ機会そのものが失われます。入口の重さは、いま決められる人だけを通す仕掛けとして働くのです。
もっとも、対応の手が回らないのであれば、入口を絞る判断も現実的でしょう。その場合も、絞る理由は「冷やかし対策」ではなく、こちらの処理能力だと分けて捉えておくほうが後の判断を誤りません。
画面と入力欄を数えて、一つ削る
申込までの画面数を数える
ここからは、手元で実行できる作業に移ります。用意するのは自分の申込導線だけで、所要時間は20分ほどです。
まず、読者の立場で最初の入口から申込完了までを実際に通ってみてください。頭の中で辿るのではなく、画面を順に開いていきます。
通りながら、切り替わった画面の数を数えます。案内ページ、フォーム、確認画面、完了画面。読み込みを挟むごとに一つと数えて構いません。
次に、フォームの入力欄を数えます。必須のものと任意のものを分けて書き出しておくと、次の作業が速くなります。
成約に要らない欄を、実際に一つ消す
数え終わったら、入力欄を一つずつ見て、その情報がいま必要かを問います。基準は「これがないと申込を処理できないか」の一点です。
処理はできるが、あると便利だという欄が必ず出てきます。その欄は、後の工程で聞き直せるかどうかを確かめて、聞き直せるなら今日は外します。
削る数は一つで構いません。一度に全部を見直そうとすると、判断が重くなって着手そのものが止まるからです。
画面の数についても同じ手順で見ます。案内と確認を兼ねられる画面がないか、確認画面が二つに分かれていないかを確かめます。
あわせて、三つ目の手間にも一行で対処しておきます。フォームの近くに、取り消しの可否と次に何が起きるかを書き添えるだけです。
「送信後、担当から2営業日以内にご連絡します。この時点で費用は発生しません」。この程度の一文で、確かめたかったことの多くは埋まります。
この作業の価値は、削った一つの効果よりも、手間が数えられる対象だと分かることのほうにあります。
数えられるものは、次も減らせます。意欲を高める工夫と違い、この作業には終わりが見え、進んだ量も分かるのです。
削った後は、実際に自分でもう一度通してみてください。数えたときには気づかなかった引っかかりが、通してみると分かることがあります。
そして、この点検は一度で終わりません。運用を続けるうちに、確認の画面や入力欄はまた少しずつ増えていきます。
増えるのは自然なことなので、数を控えておいて、半年に一度だけ同じ手順で数え直せば十分です。
総括:動いてもらう近道は、決めやすくすること
本稿では、興味があるのに動かない読者を、意欲の不足ではなく手間の多さから捉え直しました。意欲はこちらから動かしにくく、手間はこちらの側にあって数えられるからです。
行動を止めているのは、選択肢の多さ、入力と手順の多さ、そして間違えたときの見通しのなさという三つでした。三つ目だけは作業量ではありませんが、決めるまでの時間を確実に伸ばします。
手続きを軽くすることは、商品を安く見せることではありません。読者が支払っているのは手間であって、受け取っているのは中身です。二つは別の勘定になります。
冷やかしが増えるという懸念に対しては、ふるいをかける場所を入口から後ろへ移すという答えがあります。入口で止めるやり方は、本気の相手まで一緒に止めてしまうからです。
明日その場でできることは、自分の申込導線を読者として通り、画面の数と入力欄の数を書き出すことでしょう。所要時間はおよそ20分です。
書き出したら、いま必要でない欄を一つだけ消してください。全部を見直す必要はなく、一つで構いません。
一つ減らした後に数字がどう動いたかを見ておくと、次に減らす判断も速くなります。押す工夫を増やす前に、減らせるものを数える。順序としては、こちらが先です。
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