商品を売り出すとき、特典をどう付けるかは避けて通れない判断です。何を、いくつ用意すればよいのか。相場のようなものも見当たりません。
本稿では、この判断を数や豪華さではなく、本体との距離という一点から整理します。読み終えるころには、手元の特典を残すか外すかを自分で決められる状態になるはずです。
なお、登録前に渡す無料の提供物については、記事「リードマグネットとは?登録したくなる無料プレゼントの条件」で扱いました。本稿は購入時に付ける特典に絞ります。
特典は、多いほど売れるのだろうか
特典の一覧が、本体の説明より長いページ
販売ページを眺めていると、特典が十個ほど並んでいるものに出会います。それぞれに価格が添えられ、合計金額が本体を上回っていることも珍しくありません。
目を引く作りではあります。ただ、そのページをしばらく読み進めると、本体が何をしてくれるものなのかが思い出せなくなることがあります。
面積の大半が特典の説明で埋まっているためです。読者が最も長く目を通した部分が、そのページで最も強く印象に残ります。
多いほうが安全に見える、という感覚
作る側から見ると、特典を増やす判断には安心感があります。多くて困る人はいないはずだ、という感覚が働くからです。
実際、増やしたことで苦情が来ることはまずありません。反応がなければ「特典が足りなかったのかもしれない」と考え、次はもう一つ足すことになります。
この積み重ねは、どこかで止まる仕組みを持っていません。売れなかったときの解釈が、いつも「まだ足りない」の側に寄るからです。
逆に、売れたときにも判断は難しくなります。特典が効いたのか、本体が評価されたのかを、後から切り分けられないからです。
切り分けられないものは、次にも同じやり方で持ち越されます。前回と同じ構成に、念のためもう一つ足す、という形が繰り返されていきます。
そこで本稿では、増やすか減らすかという量の議論をいったん離れます。見たいのは点数ではなく、その特典が本体とどの方向を向いているかです。
数で競うと、買い手の目的が入れ替わる
特典を比べて選んだ人が、受け取りに来るもの
特典を前面に出したページで購入が決まったとき、その人は何を買ったつもりでいるでしょうか。
比較の材料が特典だったのであれば、受け取りに来ているのも特典です。本体は、特典を手に入れるために通過した入口という位置づけになります。
なぜなら、人は判断に使った材料をそのまま期待として持ち込むからです。何を基準に選んだかが、そのまま何を受け取りに来たかになります。
この状態では、本体の中身がどれだけ良くても、満足は生まれにくくなります。期待していたものと、渡されたものの中心がずれているからです。
開かれないまま残るファイルの山
そして皮肉なことに、目当てだったはずの特典も、多くの場合は開かれません。手に入れた時点で、目的の半分は果たされているからです。
十個の資料を受け取った人が、そのすべてに目を通す時間を確保できるとは考えにくいでしょう。優先順位を付けようにも、どれから手をつけるべきかが示されていません。
結果として、本体にも特典にも手が伸びないまま時間が過ぎます。受け取った量が多いほど、着手までの距離は遠くなるのです。
この状態は、次の販売にも影響します。成果が出なかった人は、次の案内にも反応しなくなるからです。
つまり、点数を増やして成約を取る形は、その回の数字と引き換えに、後の関係を細くしていきます。売れたかどうかだけを見ていると、この交換は目に入りません。
ここで一つ、区別しておきたいことがあります。特典そのものが悪いという話ではないという点です。
一つの適切な特典は、本体だけでは越えにくかった最初の一歩を確実に軽くします。問題になるのは特典の存在ではなく、点数を判断の中心に据えてしまうことのほうでしょう。
判断の軸は、本体との距離
本体が約束している成果を、まず一文にする
では、何を基準に特典を選べばよいのでしょうか。出発点は特典の側ではなく、本体の側にあります。
最初にすることは、本体が読者に何を約束しているのかを一文に書くことです。「毎月の売上の波を小さくする」でも「一人で回せる状態を作る」でも構いません。
ここが曖昧なままだと、特典の良し悪しは判断できません。比べる相手が決まっていなければ、近いか遠いかも測れないからです。
この一文を書く作業は、特典のためだけのものではありません。書けなかったとしたら、それは特典より先に手を入れる場所があるという合図になります。
同じ方向へ一歩進めるものだけが噛み合う
一文が決まったら、それぞれの特典をその一文に照らします。問うのは価値の大きさではなく、方向の一致です。
本体が売上の波を小さくすることを約束しているなら、そこへ向かって一歩進めるものだけが噛み合います。作業を省く道具でも、判断を助ける資料でも構いません。
逆に、方向の違う特典は、価値が高いほど害になります。読者の関心を別の方向へ引き寄せ、本体に向かうはずだった時間を奪うからです。
たとえば、集客の講座に高度な資料作成の教材を添えるとします。それ自体は有用でも、受け取った人は資料作りに時間を使い、集客は後回しになります。
ここで確かめておきたいのは、特典の役割が「お得に見せること」ではないという点でしょう。特典の役割は、本体で得たい成果へ読者を早く近づけることです。
この見方に立つと、点数は自然に絞られます。同じ方向を向いていて、しかも実際に着手されるものは、そう多くないからです。
絞った結果として、特典の説明も短くなります。一つひとつに価格を添えて合計額を示す必要がなくなり、何のためのものかを一行で書けば足りるようになるからです。
そして説明が短くなると、本体の説明に使える面積が戻ってきます。読者が最も長く目を通す場所が、本体の話に戻るということです。
順序としても、この形は自然でしょう。本体で何ができるようになるかが伝わった後だからこそ、それを早める手段としての特典が意味を持ちます。
本体より特典の制作に時間が向かうとき
新しく作るほうが、直すより手応えがある
実務でよく起きるのが、本体の改訂が止まり、特典ばかりが増えていく状態です。ここには、作業の性質の違いが関わっています。
新しい特典を一つ作れば、形になったものが手元に残ります。進んだ量が目に見えるため、手応えを得やすいのです。
一方、本体の説明を書き直す作業には、そうした達成感がありません。分量は変わらず、良くなったかどうかも自分では判定しにくいものです。
この差があると、時間は自然に前者へ流れます。意識して配分しない限り、手応えの得やすい作業に寄っていくのです。
改訂が止まると、本体の価値は目減りする
ただし、本体は放置すれば古びます。扱う分野の状況は変わり、読者の前提知識も動くからです。
そして本体が古びると、それを補うためにまた特典が足されます。足すことで問題が見えにくくなり、改訂はさらに遠のいていきます。
この循環から抜けるには、順番を決めておくのが確実でしょう。特典を一つ作る前に、本体をひとつ直す。この順序を先に決めておけば、配分は自動的に釣り合います。
もっとも、特典を作る作業に価値がないわけではありません。本体では扱いきれなかった部分を、特典が引き受けている場合もあります。
その場合に確かめたいのは、それが本当に別立てである必要があるのかという点です。本体に組み込めるものは、組み込んだほうが読者の手数は減ります。
「少ないと見劣りしないか」という疑問
見劣りするのは、並べて比べられたときだけ
ここまで読んで、それでも他社と比べられたら不利ではないか、と感じた方もいるはずです。この心配には根拠があります。
ただ、見劣りが起きるのは、複数の商品が同じ画面に並んで比較される場合に限られます。読者がこちらの説明を順に読んで納得してきた場合、点数は判断材料に入っていません。
つまり、この心配は「比較の土俵に立っている」という前提を含んでいます。点数で競う必要があるかどうかは、その手前で自分が何を語ってきたかによって変わるのです。
そして、点数で競う土俵に上がると、勝ち続けるには増やし続けるしかありません。他社はいつでも一つ足せるからです。
特典でしか差がつかない商品に足りないもの
もう一つの見方は、自分の商品では特典でしか差をつけられない、というものでしょう。この感覚も、実務では珍しくありません。
ここで足りていないのは、多くの場合、特典ではありません。本体が誰のどの困りごとを解くのかという言語化のほうです。
似た商品が並んでいるように見えるのは、説明が同じ抽象度で書かれているからかもしれません。対象を一段狭く名指しするだけで、比べられる相手は減ります。
もちろん、言語化には時間がかかります。特典を一つ作るほうが早く終わるのは事実でしょう。
それでも、特典で埋めた差は次の販売でも埋め直す必要があり、言語化で作った差は残ります。どちらに時間を使うかは、この違いを見て決める価値があります。
もう一つ、言語化には副次的な効き目もあります。誰のどの困りごとを解くのかがはっきりすると、どんな特典が噛み合うかも同時に決まってくるからです。
特典が思いつかないという状態は、多くの場合、本体の約束がまだ一文になっていないという状態と重なります。
この順序を逆にすると、特典を考える作業がいつまでも終わりません。基準がないまま候補だけを並べることになるからです。
特典を一つ選んで、一文で書いてみる
本体の成果に、何日ぶん近づけるか
ここまでの判断軸を、実際に一つ試してみます。紙とペンがあれば、15分ほどで終わる作業です。
まず、いま用意している特典を一つ選びます。最も自信のあるものでも、最近足したものでも構いません。
次に、その特典について一文を書きます。「これがあると、読者は本体の成果に何日ぶん早く近づけるか」を、具体的に書いてください。
「三日かかっていた作業が半日で終わる」でも「迷っていた選択が一回で決まる」でも構いません。大切なのは、進む方向と、進む量が入っていることです。
書けたなら、その特典は本体と同じ方向を向いています。書けなかったなら、方向が違うか、そもそも本体の約束が定まっていません。
書けなかった特典を、どう扱うか
書けなかった特典は、すぐに捨てなくて構いません。扱いは三つに分かれます。
一つ目は、本体に組み込む道です。本体の理解を助ける内容であれば、別立てにせず中に入れたほうが着手されます。
二つ目は、別の商品へ移す道でしょう。方向が違うのであれば、その方向を約束している別の商品の特典として置き直せます。
三つ目が、外す道です。どちらにも当てはまらないものは、点数のために置かれていた可能性が高いと考えられます。
この仕分けを全部の特典に対して行う必要はありません。一つ書いてみるだけで、残りをどう見ればよいかの感覚はつかめます。
なお、外すという判断をしたときも、その特典を破棄する必要はありません。方向の合う商品が後からできたときに、置き直せるからです。
手元に置いたまま、いまの販売ページからは下ろす。これも一つの扱い方になります。
あわせて、外した後の見え方も確かめておきます。特典を減らしたページを読み返し、本体の説明だけで買う理由が立っているかを見てください。
立っていなければ、次に手を入れるのは特典ではなく本体の説明です。特典が支えていたのは価値ではなく、説明の不足だったことになります。
総括:特典は飾りではなく、本体へ向かう補助線
本稿では、特典の付け方を数や豪華さではなく、本体との距離という一点から整理しました。特典を増やす判断は安心感を伴う一方、どこで止めるかの基準を持っていないからです。
数で競うと、買い手が受け取りに来るものが入れ替わります。判断に使った材料は、そのまま期待として持ち込まれるためです。
そして目当てだったはずの特典も、量が多いほど開かれません。着手されないまま終われば、次の案内への反応も細くなっていきます。
特典の役割はお得に見せることではなく、本体で得たい成果へ読者を早く近づけることです。
本体より特典の制作に時間が向かうのは、新しく作るほうが手応えを得やすいからでした。特典を一つ作る前に本体をひとつ直す、という順番を決めておくと配分は釣り合います。
明日その場でできることは、特典を一つ選び、それが本体の成果へ何日ぶん近づけるかを一文で書くことでしょう。道具も費用も要らず、15分ほどで終わります。
書けなかった特典は、本体に組み込むか、別の商品へ移すか、外すかの三つに仕分けます。一つ書いてみれば、残りの見方も決まってくるはずです。
この作業を通すと、特典を考える時間そのものが短くなります。候補を並べて悩む代わりに、一文に照らして残すか外すかを決めるだけになるからです。
判断に使う基準が一つに定まると、迷う場面は目に見えて減ります。次に何かを足したくなったときも、同じ一文へ照らせば答えが出ます。
そして、この基準は他人にも渡せます。制作を誰かに任せる場面でも、本体の約束を書いた一文を共有すれば、判断の軸は揃うからです。
点数の目安を伝えるより、方向を一文で伝えるほうが確実でしょう。数は状況で変わりますが、向きは変わらないためです。
特典を考える時間は、本来それほど長く取るものではありません。本体の約束が定まっていれば、噛み合うものは自然に絞られてくるからです。
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