マーケティングの勉強で、数か月後に学び直しへ戻る人と積み上がる人を分けているのは、才能でも教材の質でもなく着手の順番です。本稿ではその順番を原理・全体設計・各論の3工程に分け、各工程で何をどこまでやれば次へ進めるのかまでお伝えします。
手順の前に——なぜ「順番」が結果を分けるのか
知識には、古びるものと古びないものがある
工程に入る前に、この手順が効く理由を先に置いておきます。理由は一つで、知識にはそれぞれ「持ちの長さ」が違うからです。
すぐ古くなる知識の代表が、特定の媒体に依存した各論のテクニックになります。ある媒体の攻略法は、運営側の一度の仕様変更で価値を失います。実際、数年前に多くの人が磨いていた投稿の型の多くは、いま同じようには通用しません。
一方、長く効き続けるのが、人の購買行動を貫く原理です。人が見知らぬ相手を信頼して財布を開くまでの心の順序は、手紙の時代からSNSの時代まで変わっていません。道具の仕様ではなく、人間の側の性質に根ざしているからです。
計算の道具が算盤から電卓、表計算へ移り変わっても、「何を計算させるか」を考える力は古びませんでした。それと同じ構造がここにもあります。
だから、同じ学習時間を注ぐなら、古びにくい知識から先に積むほうが、投じた時間が長く働きます。この手順が効くのは、努力の量を増やすからではなく、努力が消えない場所から先に積むからです。
始める前に決めておくのは「何のために学ぶか」だけ
もう一つ、始める前に決めておくことがあります。といっても、決めるのは一つだけです。
「自分の事業の、どの数字を変えたくて学ぶのか」を一行で書いておきます。問い合わせを増やしたいのか、登録を増やしたいのか、成約率を上げたいのか。
数字で書くのは、学びの寄り道に気づくためです。目的が「集客を良くしたい」のような言葉だと、どんな教材でも関係がありそうに見えてしまいます。
これを先に書く理由は、工程2と工程3の判断基準がすべてここから出るためです。目的の一行が無いまま学び始めると、教材の選択が「面白そうな順」になります。
資格試験のような合格点はありません。一行が書けたら、それで準備は終わりです。ここから先は、書いた一行を物差しにして工程を進めます。
工程1:原理を三つだけ押さえる
やること:人が買うまでの順序を、自分の言葉で言えるようにする
最初の工程でやることは、原理の暗記ではありません。次の三つを、教材の言葉ではなく自分の言葉で説明できる状態にすることです。自分の言葉に直せた知識だけが、場面が変わっても引き出せるためです。
一つ目は、人はまず知り、次に信じ、最後に動くという順序です。なぜ順序が固定なのかまで言えるようにします。知らないものは信じられず、信じていないものには財布を開けない、という依存関係が答えになります。
この順序が使えるのは、発信の不調がどこで起きているかを切り分けられるからです。読まれているのに売れないなら、詰まっているのは「信じる」の段だと当たりが付きます。
二つ目は、読み手は読まない・信じない・行動しないという三つの壁です。これを押さえるのは、発信のあらゆる工夫がこの三つのどれかを越えるために存在するからです。
三つ目は、価値は伝わって初めて価値になるという一点です。良い商品がそれだけでは売れない理由の大半が、品質ではなくここに集約されているためです。
確認の方法も決めておきます。三つそれぞれを、事業をやっていない家族や友人に、例え話つきで3分で説明してみてください。相手が「なるほど」と言えたら、その原理は自分の言葉になっています。
到達の見本を一つ置いておきます。「人はまず知り、次に信じ、最後に動く」を例え話にするなら、「初めて入る飲食店で、看板を見て、口コミを確かめて、それから席に着くのと同じ順番です」という説明で足ります。この長さで相手が頷けば合格になります。
ここで一つ、疑問が出るはずです。原理と呼べるものは他にもたくさんあるのに、なぜ三つだけでよいのか、という点になります。
答えは、この三つが他の原理の親にあたるからです。たとえば損失回避や返報性といった細かな法則は、「信じる」「動く」の壁を越える場面の各論として、この三つの下にぶら下がります。
教材を読む時間を含めても、この工程は数日で通れます。何か月も籠もる工程ではありません。
なぜ最初なのか:あとで学ぶ全部の「理由」になるから
ここで、順序の理由を確かめておきます。なぜ原理が最初でなければならないのでしょうか。
数学にたとえると分かりやすくなります。公式の意味を理解した人は、形を変えた問題にも公式を当てはめられます。計算ドリルの手順だけを丸暗記した人は、少し形が変わると手が止まります。
止まるのは、手順の一つ一つが何のためにあるかを知らないからです。逆に言えば、理由ごと覚えた知識は、初めての場面でも組み替えて使えます。
マーケティングの各論は、すべてこの三つの原理の応用です。たとえば「LPでは商品説明より先に読み手の状況を書く」という手法は、壁の一つ目「読まない」を越えるための応用にすぎません。
原理を先に持っている人は、初めて見る手法でも「これは何の応用か」が分かります。理由ごと理解した知識は、場面が変わっても使い回せます。だから最初なのです。
工程2:自分の事業の地図を一枚描く
やること:紙一枚に3つの工程と矢印を書く
二つ目の工程は、手を動かす作業です。紙を一枚用意し、左から「集客」「教育」「販売」と三つの箱を書きます。
箱の中には、自分の事業でその役割を担っているものを書き込みます。集客の箱に「ブログ」「SNS」、教育の箱に「メルマガ」、販売の箱に「個別相談」といった具合です。
次に、箱と箱を矢印でつないでください。矢印の上には「どうやって次へ渡しているか」を一言添えます。書き方は「記事末の登録案内」「メルマガ内の案内」程度で構いません。
ここで手が止まる箇所が出てきます。箱が空のまま埋まらない、または矢印に書くことが無い。その空白こそが、この作業の成果物です。
いまの事業に欠けている工程と、切れている継ぎ目が一枚で見えます。探しに行くのではなく、書けなかった場所として向こうから現れる形です。
所要は30分ほどです。きれいに描く必要はなく、埋まらない場所が分かればこの工程は完了になります。
なぜ二番目なのか:各論の置き場所が先に要るから
そう聞くと、「地図を描くだけなら、各論と並行でもよいのではないか」と思われるかもしれません。順序を固定する理由があります。
各論の教材は、それ自体では「自分の事業のどこを直すものか」を教えてくれません。SNSの教材は集客の話しかせず、セールスの教材は販売の話しかしないからです。
地図を先に持っていれば、これから出会う各論はすべて「地図上のどこか」に収まります。地図が無いまま各論を集めると、部品だけが増えて、どこに取り付けるものか分からなくなります。
そして地図には、もう一つの働きが備わっています。空白が見えた時点で、次に学ぶべき各論が一つに絞られるのです。工程3の教材選びは、実はここでほぼ終わっています。
工程3:各論は「地図の住所つき」で学ぶ
やること:教材を選ぶ前に、どの工程の道具かを書き添える
三つ目の工程で、ようやく各論に入ります。ただし、部品を無秩序に増やさないために、入り方へ一つだけ決まりを置きます。
教材や情報に手を付ける前に、「これは地図のどの箱に入る道具か」を書き添えることです。記入は「ステップ配信の教材→教育の箱・登録直後の一週間を埋める道具」のような一行で足ります。書き添えられないものは、いったん保留の箱へ移してください。
選ぶ順番は、工程2で見つかった空白からになります。教育の箱が空だったなら、学ぶべきはメルマガやステップ配信の各論であって、いま流行している集客手法ではありません。
空白から選ぶ理由は、成果への距離が最短だからです。導線は掛け算で効くため、ゼロの工程が一つあると他の工程の成果まで消えます。丸ごと欠けている場所を埋める一歩が、掛け算全体を動かします。
学びながら確かめることも一つに絞れます。その手法が、工程1の三つの原理のどれを応用したものかを説明できるか。説明できれば、その各論は媒体が変わっても持ち出せる形で身に付いています。
なぜ最後なのか:土台の上でだけ、各論は古びにくくなるから
各論を最後に回す理由は、各論の価値を低く見ているからではありません。むしろ逆になります。
同じ各論でも、土台の上に置かれたものは応用が利き、単独で覚えたものは仕様変更と一緒に消えます。順番が、同じ知識の寿命を変えるのです。
流行の手法を試すこと自体は、有効な実験です。ただしそれが実験になるのは、外れたときに「どの工程のどの仮説が外れたか」を言える人、つまり地図を持っている人に限られます。
土台がまだ無い段階での流行追いは、実験ではなく賭けになります。外れたときに、何も学びが残らないためです。
境界線はここに引けます。原理と地図を持っているなら流行は試してよく、まだ持っていないなら先に土台へ時間を使うのが得策です。土台があれば外れの原因を切り分けられるため、同じ流行を後で試すときの成功率まで上がります。
つまずきやすい箇所と、その見分け方
この手順を実際に進めると、つまずく場所はだいたい決まっています。三つ挙げておきます。
一つ目は、工程1が退屈で各論へ戻りたくなることです。原理の勉強には、投稿が伸びるような即時の手応えがありません。
見分け方は簡単で、学習メモに「すぐ試せること」ばかりが並び始めたら、各論へ流れています。その場合は、工程1の確認方法(3分の説明)を先に済ませてから移ってください。
二つ目は、工程2を頭の中だけで済ませることです。「うちの導線は大体分かっている」と紙を省くと、空白は見つかりません。紙に書いたかどうかという事実だけで見分けられます。
三つ目は、工程3で保留の箱が膨らみ続けることです。地図に載らない情報を捨てられず、結局全部読んでしまう形になります。
これは目安を決めておくと防げます。保留の箱は月に一度だけ開き、その時点でも住所が書けないものは削除します。
三つに共通するのは、いずれも「悪い癖」ではなく、即時の手応えを求める自然な心の動きだという点です。責める必要はなく、見分けて戻れれば足ります。
三つの工程を一度通したあとに残るもの
この手順を一度通すと、手元に三つのものが残ります。どれも一度作れば消えないため、次の学びの元手になります。
一つ目は、自分の言葉になった三つの原理です。これは新しい手法に出会うたびに「何の応用か」を見抜く道具として働き続けます。
二つ目は、事業の地図一枚です。空白が埋まるたびに描き直すので、地図は事業の現在地の記録にもなります。数か月おきに見返せば、どの継ぎ目が太くなったかが一目で分かるからです。
三つ目が、いちばん日常で効くものです。新しい教材や情報に出会ったとき、「これはどの箱の道具か」「どの原理の応用か」という二つの問いで、学ぶ価値を数分で仕分けられるようになります。
いま自分がどこにいるかも、同じ問いで確かめられます。三つの原理を3分で説明できないなら工程1、紙の地図がまだ無いなら工程2、地図はあるが教材に住所を書き添えていないなら工程3の入り口です。
すでに各論から学び始めている方も、やり直しにはなりません。工程1と2を後から通せば、これまで積んだ各論に住所が付き、バラバラだった部品が地図の上で組み上がります。
総括:遠回りに見える順番が、学び直しを消す
本稿の手順を整理します。マーケティングの勉強は、原理・全体設計・各論の順で積みます。
工程1では、人が買うまでの三つの原理を自分の言葉にします。確認の物差しは、例え話つきで3分の説明ができるかどうかに置きました。
工程2では、紙一枚に集客・教育・販売の箱と矢印を描きました。埋まらない空白が成果物で、所要は30分です。
工程3では、各論に地図の住所を書き添えてから学びます。選ぶ順は空白から、確かめるのは「どの原理の応用か」の一点です。
この順番が効くのは、古びない知識から先に積むと、投じた時間が消えなくなるからでした。学び直しの多さは能力の差ではなく、積んだ順番の差から生まれています。
今日できるのは、目的の一行を書くことと、いまの学習リストに住所を書き添えてみることです。住所が書けない教材の多さが、いまの現在地を教えてくれます。二つ合わせても30分あれば足りるので、次の教材を開く前に済ませてみてください。
遠回りに見える原理からの道は、二度と同じことを学び直さないという意味で、結局いちばん速い道になります。その中心にある集客・教育・販売のつながりは、次の教材でさらに深く扱っています。
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