サービスの価格はどう決める?上限から遡る

事業構築・経営

見積書を作っていて、金額の欄だけが最後まで埋まらない。この状態から抜けるために目指すのは、その金額の理由を聞かれる前に言える状態です。その状態を出発点に一段ずつ手前へ戻ると、いま埋めるべき場所が見つかります。

目指す状態は、金額の理由を聞かれる前に言えること

決まらないのは、数字の選び方の問題ではない

まず、到達したい状態を具体にしておきます。金額を告げる前に、その数字の理由を自分の言葉で言える状態です。

逆の状態も挙げておきます。単価を入力しては消し、また入力しては消す。高くすると選ばれないのではと思い、安くすると自分の首を絞める気がする。

ここで見落とされやすいのは、高くしても安くしても不安が消えないという点です。金額の大小が問題なら、どちらかで落ち着くはずです。

落ち着かないということは、迷いの原因が数字の側にないことを示しています。目指すのは「なぜその金額なのか」を、聞かれる前に一文で言える状態です。

この状態は、一度決めたら終わりでもありません。新しいサービスを作るたび、単価を上げようとするたびに、同じ問いが戻ってきます。

相場の真ん中が足場にならない理由

この状態を、調べて済ませたくなる場面があります。同業者の料金を並べて、その真ん中に置くという形です。

置いた瞬間は安心できます。突出していないという安心が、判断の代わりになるからです。

ただ、相場は他社それぞれの事情から出た数字の集まりです。こちらの提供している内容とは無関係に決まっています。

関係のない数字の真ん中に立っても、支えるものはありません。値引きを求められた瞬間に、そのことがはっきりします。

もう一つ、相場の真ん中には副作用があります。似た金額が並ぶと、買い手にとって選ぶ手がかりが価格以外に残らなくなります。

安全に見えた位置取りが、比べられる場面ではかえって埋没の原因になるという逆転がここにあります。

原価から出すと、上達するほど価格が下がる

相場のほかに、もう一つよく使われる材料があります。かかった費用と時間に利益を乗せる、原価から積み上げる出し方です。

一見すると根拠がありそうに見えます。実際に払ったものが土台になっているためです。

ところが、サービスではこの出し方に矛盾が生じます。経験を積んで作業が速くなるほど、かかる時間は減ります。買い手が受け取る成果は変わらないか良くなっているのに、価格だけが下がっていくのです。

同じ資料を作るのに、一方は3日かけ、もう一方は半日で仕上げる。原価から出せば、後者のほうが安くなります。

ただ、買い手が受け取るものが同じなら、この価格差に理由はありません。速いほうがむしろ価値が高いという場面すらあります。

買い手が対価を払っている先は、こちらの作業時間ではありません。だから足場の最下段に置くのは、原価でも相場でもなく、提供している価値そのものになります。

ここから先は、この状態を出発点に一段ずつ戻る形になります。問い方は毎回同じで、「そう言えるには、その前に何が決まっている必要があるか」だけです。

その直前に必要なもの——どこまで関与するかが決まっている

始まる時点と終わる時点を言えるか

下りる段は全部で四つあります。下へ行くほど、いま手をつけられる場所に近づきます。

まず一段下ります。金額の理由が言えるためには、その手前に何が要るかという問いです。

答えは、どこまで関与するかが決まっていることになります。関与の範囲が決まらなければ、金額の中身も決まらないからです。

同じ制作物を納める仕事でも、納品して手を離す形と、公開して数字が動くまで並走する形では、受け取る側の価値が違います。作業が同じでも、範囲が違えば別の商品です。

だから書くのは、始まる時点と終わる時点の二つになります。この二つが言い切れていれば、この段は埋まっています。

範囲を決めることは、断ることとは違います。含まない部分を先に示しておくと、後から追加で相談されたときに別料金として扱えます。

埋まっているかを、一つの問いで見る

判定は一つの問いで済みます。「自分の関与は、いつ始まっていつ終わるか」に即答できるかどうかです。

即答できるなら、この段は埋まっています。考え込むようなら、まだ言葉になっていません。

見るのは、直近に出した見積書か提案書です。そこに終わる時点が書かれていないなら、相手の側でも範囲が決まっていないことになります。

ここが空いていると、後から作業が増えていきます。増えた分は値引きと同じ働きをします。

もう一つ、範囲を書いておくと商談の場でも効きます。相手が「どこまでやってもらえるのか」を確かめる時間が省けるためです。

この確認に時間を取られている商談は、多くあります。先に書いてあるだけで、話す内容が条件の確認から中身の相談へ移ります。

さらに手前に必要なもの——相手にどんな変化が起きるかが言える

作業名で答えているうちは、この段は空いている

もう一段下ります。関与の範囲を決めるために、何が言えている必要があるかという問いです。

答えは、相手にどんな変化が起きるかを言えることになります。変化が決まらなければ、どこまで付き合えばよいかも決まりません。

ここでよく起きるのが、作業名で答えてしまうことです。集客を支援します、ページを作ります、といった形が典型でしょう。

作業名は、こちらが手を動かす内容の説明です。相手の側に何が残るかは、まだ何も書かれていません。

作業名で価格を出すと、値引きの標的になりやすくなります。作業の対価としか受け取られないため、比べる相手が作業量だけになるからです。

埋まっているかを、一つの問いで見る

判定の問いはこうなります。「依頼前の相手はどういう状態で、終わった後にはどうなっているか」を二つ並べて言えるかどうかです。

並べられるなら、この段は埋まっています。片方しか出てこないなら、まだ変化になっていません。

見る材料は、これまでの顧客の記憶です。最も手応えのあった一人を思い出し、その人の前と後を書き出します。

ここが埋まると、上の段はすぐ出ます。変化が決まれば、どこまで付き合うかも自然に決まるためです。

変化を書くときは、相手を主語にします。「集客を支援します」ではなく「毎週の発信が止まらなくなる」という形です。

主語が自分のままだと、作業名から抜け出せません。主語を入れ替えるだけで、書ける中身が変わります。

いま着手できるのは、誰の課題かを一行で書くところから

必要なのは記憶だけで、新しい調査は要らない

最後の一段だけは、性質が違います。決まっているかを問うのではなく、実際に紙に書く作業になるからです。

もう一段戻ると、底に着きます。誰の課題を扱うのかを、一行で書くことです。

ここが底であり、同時に唯一その場で手が動かせる場所でもあります。

やることは、これまでの顧客のうち最も手応えのあった一人を思い浮かべ、その人の輪郭を一行にすることだけです。市場調査もアンケートも要りません。

書くときは、抽象度を下げます。「個人事業主の方」では広すぎて、次の段が出てきません。

対象を狭めると価値が小さくなるように感じられますが、実際は逆でしょう。狭いほど、読んだ相手が自分のことだと受け取れます。

ここから上の段が順に埋まる

一行が書けると、上の段が順に埋まっていくはずです。順番に見ていきます。

誰かが決まると、その人に起きる変化が書けるはずです。三つ目の段はこれで埋まります。

変化が決まると、どこまで付き合うかも決められるでしょう。二つ目の段もこれで埋まります。

範囲が決まれば、金額の理由が言える状態になります。一番下の一行を書くだけで、上の三つが順に埋まる構造になっています。

かかるのは20分程度です。粗い言葉でも構いません。

粗くてよい理由は、この三行が一度で完成するものではないからです。案件を重ねるたびに、輪郭のほうが鮮明になっていきます。

そして、この三行は価格を決めるためだけのものではありません。誰のどんな変化にどこまで関与するのかは、そのまま発信の芯になります。

価格の設計から始めたつもりが、事業の輪郭を書いていたということです。三行が固まると、書くことにも迷いにくくなります。

下から並べ直すと、多くがどこで止まるか

最初の段で相場を借りてしまう

ここまでは上から下へ戻ってきました。今度は逆から、下の一行を起点に並べ直してみます。

誰の課題かを書き、その人に起きる変化を書き、どこまで関与するかを決め、そこから金額の理由を出す。この四つが順に並びます。

ところが、この順で進む人はあまりいません。いきなり金額の段から入り、相場を調べて済ませてしまうためです。

検索なら数分、三行を書くなら20分。かかる時間だけを見れば、調べるほうが合理的に思えます。

ただ、この20分を払うのは最初の一回だけになります。以後は案件ごとに手直しするだけです。

相場を見ること自体が無駄なのではありません。市場からどれだけ離れているかを測る物差しとしては有効です。問題は、それを足場の代わりに使うことにあります。

借りた数字は、値引きを求められたときに支えられない

ここで失われるのが、支える構造です。借りてきた数字の下には、何も積まれていないからです。

値引きを求められた場面で、この差がそのまま出ます。三段がある価格は「この金額は、ここからここまでを含んでいます」と説明で応じられます。

三段がない価格では、応じるか断るかの二択になります。説明できない数字は、押されたときに動くしかありません。

そして一度動いた価格は、次の商談でも同じ位置から始まります。判断が保留のまま、金額だけが下がり続ける状態です。

逆に三段がある場合、値引きに応じるとしても位置が違います。範囲を減らして金額を下げるという、説明のつく譲り方ができるためです。

三行を書いて、現在地を確かめる

三行を書いて、三つの基準で見る

ここからは、自分の現在地を確かめます。紙かメモを一枚開いて、三行を書くだけです。

一行目に「誰の」、二行目に「どんな変化」、三行目に「どこまで」を書きます。

書けたら、三つの基準で確かめます。一つ目は、一行目と二行目の主語が自分ではなく相手になっているか。

二つ目は、二行目が作業名ではなく状態の変化で書かれているか。三つ目は、三行目に始まりと終わりの両方が入っているかです。

三つの基準のうち一つでも通らなければ、その行を書き直します。書き直す作業自体が、下の段を固める作業になります。

空いている段から手をつける

着手点は三つのどれかになるでしょう。どこに当たるかで、次の作業が変わってきます。

三つとも通ったなら、金額の理由は手元にあるはずです。次の商談で、金額を告げる前にその三行を先に伝えます。

二行目が作業名になっていたなら、そこから着手します。顧客の前と後を書き出す作業です。

一行目が広すぎたなら、そこが着手点になります。上の段は、一行目の解像度より細かくはなりません。

どの結果でも、次の作業が一つに決まります。金額を動かすのは、三行が埋まってからでも遅くありません。

総括:価格は宣言ではなく、積み上げた結果

本稿では、サービスの価格を決める道筋を四つの段で辿りました。目指す状態は、金額の理由を聞かれる前に言えることです。

その直前には、どこまで関与するかが決まっている段があります。さらに手前には、相手にどんな変化が起きるかを言える段があります。

一番下にあるのが、誰の課題かを一行で書く作業です。市場調査は要らず、これまでの顧客の記憶だけで始められます。

下から辿ると、最初の一行が上の三つを順に押し上げていきます。誰かが決まれば変化が書け、変化が決まれば範囲が決まり、範囲が決まれば金額の理由が出ます。

多くが止まるのは、この順を踏まずに一番上から入り、相場の真ん中を借りてしまうためです。

借りた数字の下には、何も積まれていません。値引きを求められたとき、応じるか断るかの二択になります。

今日できるのは、紙を一枚開いて「誰の」「どんな変化」「どこまで」の三行を書くことです。20分ほどで終わります。

書けたら、次の商談で金額を告げる前にその三行を伝えてみてください。相手の質問が金額から内容へ移れば、下の段は効いています。

次に読みたい記事——値下げが信頼を削るのはなぜ?「信用の前借り」の構造

三行が埋まっても、値引きを求められる場面はなくなりません。応じるかどうかは別の判断として残ります。

設計として譲る値引きと、支えきれずに崩れた値引きでは、相手への伝わり方がまったく違います。その違いがどこから生まれるかについては、次の記事で詳しく扱っています。

▶ 「値下げが信頼を削るのはなぜ?『信用の前借り』の構造」を読む