中身には自信があるのに売れない、という悩みに直面すると、多くの方は価格や機能といった商品側に原因を探しにいきます。しかし売れない理由の多くは商品の外、買い手側の欠落にあり、それは三つに分かれます。本稿では三つの見分け方と直す場所、自分の場合の確かめ方までお伝えします。
「商品を磨けば売れるはず」で手が止まる
売れない状況が続くと、人は商品そのものを疑い始めます。価格を見直し、機能を足し、説明資料を作り直す。それでも数字が変わらず、また商品へ戻っていく循環です。
商品へ戻ってしまうのは、そこが自分の手で直せる唯一の場所に見えるからです。買い手の頭の中は見えませんが、商品は目の前にあります。
この形の悩みは、業種や商材が違っても驚くほど似た輪郭を持っています。個人事業主でも、講座の運営者でも、中小企業のマーケ担当でも同じです。
この循環から抜けられないのは、品質と売れ行きが本来、別の変数だからです。人は、存在を知らないものを選べません。存在を知っていても、信頼できないものには財布を開きません。
つまり購買が起きるまでには、品質の外側に少なくとも「知られる」「信じられる」という関門があります。どれほど優れた商品でも、関門の手前で止まっていれば売れ行きはゼロのままです。
誤解のないように言えば、品質を軽視してよい話ではありません。品質は土俵に上がるための入場条件だからです。
ただし、入場条件をいくら磨いても、土俵の上の勝敗は決まりません。勝敗を決めている変数は別にあります。
分ける基準——買い手から見て、何が欠けているか
では、売れない原因をどう切り分けるか。基準を一本に絞ります。売り手が何をしたかではなく、買い手から見て何が欠けているかです。
売り手側の視点で原因を数えると、施策の数だけ候補が出てきて絞れません。投稿が悪いのか、広告が悪いのか、価格が悪いのか、と打ち手の反省会になります。
買い手側から見ると、欠落は三つしかありません。そもそも存在を知らない、知っているが信じるに足る材料が無い、関心はあるのに次へ進む道が無い、の三つです。
この三つは順番に並んでいます。知らないものは信じられず、信じていないものには進めないためです。
だから診断も、必ず一つ目から順に当てていきます。順に見れば、自分の欠落はどれか一つに落ちます。
欠落①:知られていない——存在が届いていない
見分け方:反応の前に、接触の数を見る
一つ目の欠落は、商品どころか自分の存在自体が、対象の相手にまだ届いていない状態です。三つの中で最も多く、最も気づかれにくい欠落でもあります。売り手自身は毎日その商品のことを考えているため、「知られていない」という状態を想像しにくいからです。
見分ける材料は、発信や露出の絶対量になります。月に数回の投稿、更新の止まったサイト、名刺交換の範囲だけの認知。この状態で売れないのは、商品の質と無関係です。
反応率や成約率といった率の指標は、この段階ではまだ見ません。母数が小さいうちの率は偶然で大きく揺れるため、判断材料にならないからです。
目安を一つ置きます。見込みの相手が、この一か月であなたの発信に触れた回数を数えてみてください。
ゼロから数回なら、欠落はここです。触れる機会がそれだけ少なければ、中身の評価はまだ始まってもいません。
ここを誤診しやすいのは、身近な数人の反応を「市場の反応」と取り違えるためです。知人が褒めてくれるのに売れないという状態は、たいてい知人の外へ存在が出ていないことを意味します。
直す場所:磨くのをやめて、届ける回数へ
欠落が①なら、直す場所は商品ではなく接触の回数です。人は繰り返し目にした相手に親しみを覚えやすい、という傾向がよく知られています。接触の積み重ね自体が、好意と記憶の下地を作ります。
やることは、発信の頻度と置き場所を先に決めることです。週に何本を、どこに出すか。中身の完成度を上げる時間を、いったん回数の確保に振り替えます。
振り替えを勧めるのは、①の段階では完成度の差が伝わらないからです。一度しか見ていない相手には、90点の一本より、60点でも繰り返し届く発信のほうが記憶に残ります。
ここで「量を出すと質が下がるのでは」という不安が出るはずです。①の段階に限っては、質の判定者がまだいません。読む人が現れてから、質の競争は始まります。
注意点も一つあります。①の段階の発信で商品の宣伝ばかりを繰り返すと、届いた瞬間に②の壁が厚くなります。まだ関係の無い相手にとって、宣伝は警戒の材料にしかならないためです。
この段階で届けるのは、相手の悩みに答える中身が基本になります。届いた回数が信頼の下地を作り、中身が次の欠落②への備えになる、という二重の働きです。
欠落②:信じられていない——知られたのに動かれない
見分け方:見られた形跡はあるのに、次が起きない
二つ目の欠落は、存在は知られているのに、信じる材料が渡っていない状態です。買い手には商品の中身を購入前に確かめる手段が無いため、材料が無ければ警戒が残ります。
見分ける材料は、接触と反応のずれになります。発信は見られ、プロフィールも訪問されているのに、問い合わせや登録という次の行動が起きない。この形が出ていれば、欠落はここです。
①との切り分けは、接触量で判定できます。十分に届いているのに動かれないのが②で、そもそも届いていないのが①です。アクセスや表示の数字が一定量あるなら、①はすでに越えています。
②の状態は、書き手からは見えにくいものです。見られている実感はあるため、原因を探す気持ちが起きにくく、発信の量をさらに増やす方向へ進みがちになります。量を足しても、信じる材料が増えなければ②は動きません。
直す場所:判断の材料を先に渡す
欠落が②なら、直す場所は「信じるに足る材料を、購入判断より前に渡すこと」です。順番が肝心で、判断を迫る場面に材料を並べても、警戒の中で読まれるため効きが落ちます。
ここで「実績が無ければ、信じてもらいようがないのでは」と思われるかもしれません。実績は材料の一つにすぎず、代わりは二種類あります。
一つは、考え方や判断の理由まで書かれた発信です。読み手はその筋を自分の状況に当てて検証できるため、実績の数字が乏しくても信頼の材料として働きます。
もう一つは、第三者の声や利用の痕跡です。人は初めての相手を評価するとき、自分の判断だけでなく他者の評価を手がかりにします。お客様の声が一つも見えない状態と、数件でも具体的な声がある状態では、初見の警戒がまるで違います。
声の集め方は、依頼の一文を決めておくだけで足ります。「今回の中で、いちばん役に立った部分をひとつ教えてください」という聞き方なら、相手も答えやすく、答えの具体性も上がります。
ここで焦って強い言葉に頼ると、逆効果になります。「絶対」「必ず」と断定を強めるほど、材料の不足を勢いで埋めようとする意図が透けるためです。強さではなく、検証できる形が信頼を作ります。
目安として、次の発信から結論の隣に理由を一行添えてみてください。渡す材料の第一号としては、それで十分に働きます。
欠落③:渡す先が無い——施策が点のまま切れている
見分け方:反応はあるのに、売上へつながらない
三つ目の欠落は、知られてもいるし反応もあるのに、その反応の行き先が用意されていない状態です。ここまで来ている事業は多くの仕事を正しくやれているぶん、最後の欠落が惜しい形になります。
見分ける材料は、反応と売上のずれになります。投稿への反応は良い、問い合わせも時々来る。それなのに売上が比例して伸びないなら、欠落はここです。
起きているのは、施策の孤立です。投稿を読んだ人が次に読むものが決まっておらず、資料を受け取った人に、その後に届くものが無い。個々の施策は動いているのに、点のまま線になっていない形です。
①②と違い、③は施策単体をいくら見ても発見できません。見るべきは施策そのものではなく、施策と施策の「間」だからです。
間が見えにくいのには理由があります。施策には担当や予算が付きますが、施策の間には誰も付いていません。誰の持ち場でもない場所は、点検の対象からも自然に外れていきます。
直す場所:次に渡す先を一つ書き足す
欠落が③なら、直すのは施策の中身ではなく、行き先です。最も労力をかけている施策を一つ選び、「これを受け取った相手は、次に何を受け取るのか」を一行書き足します。労力の大きい施策から始めるのは、同じ一行でも通る人数が多く、効き目が最初から観測しやすいためです。
投稿なら、読んだ人が次に読む記事への案内。資料なら、受け取った人に後日届く続きの情報。新しい施策を足すのではなく、すでにある施策に行き先を書き足すのが、最も費用のかからない直し方です。
書き足す一文の例も挙げておきます。投稿の末尾なら「この投稿の考え方を導線全体に広げた記事があります」、資料の最終ページなら「読み終えた方向けに、次の段階の解説をメールで届けています」という形です。
一つの施策で行き先が埋まったら、次の施策へ移ります。この作業を続けるうちに、バラバラだった点が集客から販売への一本の線に変わっていきます。線になった導線は、個々の施策の出来に頼らず成果を運び始めます。
自分の場合はどれかを確かめる——施策の書き出し
最後に、自分の欠落がどれかを確かめる番です。頭の中の印象で判定すると商品の反省会へ戻ってしまうため、紙に出して確かめてください。特別な分析は要らず、紙一枚と30分で足ります。
この一か月で実行した施策を、思い出せる範囲で書き出してください。SNSの投稿、広告、営業、資料作成など、売上に向けた動きなら何でも構いません。粒の大きさが揃っていなくても、診断には差し支えないからです。
書き出したら、二つの欄を添えます。それぞれの施策が「どれだけの人に届いたか」と、「次に渡す先が書けるか」です。
記入の例はこうなります。「SNS投稿:週3本・表示は数百・行き先=空欄」「紹介経由の商談:月2件・行き先=その場で完結」。この2行だけでも、欠落の場所が浮かびます。
結果は三つのどれかに落ちます。届いた人数がそもそも少ないなら①で、直すのは頻度と置き場所です。
届いているのに反応が無いなら②で、直すのは判断材料の先渡しになります。反応はあるのに行き先の欄が空だらけなら③で、直すのは施策の間です。
複数に当てはまる場合は、必ず番号の若い側から直してください。知られていない段階で信頼の材料を厚くしても、読む人がいないためです。
この書き出しには、副産物もあります。施策への熱心さが視野を狭める、という罠の自己点検になることです。
目の前の一手に集中するほど、その一手が全体のどこを担っているかは見えなくなります。書き出して並べる作業だけが、その狭まりを外から見せてくれます。
総括:品質は入場条件であって、勝敗を決める条件ではない
本稿では、良い商品が売れない理由を買い手側の欠落で三つに分けました。知られていない、信じられていない、渡す先が無い、の三つです。売り手側の反省会では原因が絞れなかったのは、見る側が逆だったからでした。
三つには順番があります。知らないものは信じられず、信じていないものには進めないためです。
だから診断は①から順に当て、複数当てはまるなら若い番号から直します。手前の欠落を飛ばした投資は、読む人のいない場所に積まれてしまいます。
①なら磨く時間を届ける回数へ振り替え、②なら判断の材料を購入判断より前に渡し、③なら施策に行き先を一行書き足します。どの処方にも、商品を作り直す工程は入っていません。
今日できるのは、一か月分の施策の書き出しです。届いた人数と行き先の二つを添えれば、30分で自分の欠落が特定できます。特定さえ済めば、直す場所は一つに絞られるので、商品の反省会に戻る必要はもうありません。
品質は土俵に上がるための入場条件であり、土俵の上の勝敗は、知られ方・信じられ方・つながり方で決まります。良い商品を持っていることは、恵まれた出発点です。あとは欠けている一つを埋めるだけで、その商品は働き始めます。
三つの欠落を埋めた先にあるのが、売上を仕組みに変えるという次の段階です。単発の売上と資産型の売上の違いを、次の記事で扱っています。
