広告を出しても発信を続けても、気づけばいつも同じ相手を競合と奪い合っている。顕在客と潜在客のどちらに力を注ぐべきかという問いは、比べる軸を一本に決めると判定できます。本稿では「その相手を得るのに競争が要るか」という軸で両者を並べます。
どちらを追うかは、並べて眺めても決まらない
語り方が非対称だと、比べたことにならない
まず、言葉の整理から始めます。顕在客とは、必要性を自覚し、すでに情報を集めたり比べたりしている相手です。潜在客とは、いずれ必要になりうるものの、今はまだ動いていない相手を指します。
この二つを並べたとき、多くの説明は語り方が揃っていません。顕在客は「買う気がある」と心理で語られ、潜在客は「まだ先の相手」と時期で語られます。
心理と時期という別の物差しで並べても、比べたことにはなりません。どちらが良いかは、読む人の印象で決まってしまいます。
実際、この二つを扱う説明の多くは結論が割れています。「買う気のある人だけを相手にせよ」と書くものもあれば、「長い目で育てよ」と書くものもあります。
結論が割れるのは、書き手の立場が違うからではありません。比べる軸が示されないまま、それぞれの利点だけが並べられているためです。
判断を決めるのは、比べる軸が一本あるかどうか
ここで必要なのは、両者に同じ角度から当たる軸です。軸が一本あれば、印象ではなく判定になります。
軸の条件は二つあります。両者に同じ問いを当てられること、そして答えの違いが、そのまま打ち手の違いに変わることです。
この二つを満たす軸を、次で一本立てます。以降の判断は、すべてその一本に載せます。
軸を一本に決めると、代わりに捨てるものも出てきます。成約までの早さや単価の高さは軸に載らないため、本稿では判断材料から外します。人数についても、どちらを追うかの判断には使わず、枠の大きさを説明する場面でだけ触れます。
比べる軸は、その相手を得るのに競争が要るかどうか
なぜ「人数」や「買う気」を軸にしないのか
本稿で使う軸は、その相手を顧客にするために、他社と取り合うことになるかどうかです。
では、なぜ人数を物差しにしないのか。人数は市場や時期で変わるうえ、多いほうが良いとも限らないためです。
買う気を軸にしない理由もあります。買う気は相手の内側にあり、こちらからは確かめられません。確かめられないものを軸にすると、判定が推測になります。
競争の有無は、外から見えます。同じ相手に他社の提案が届いているかどうかは、自分の側で観察できる事実です。
確かめ方も簡単で、相手に聞けば分かります。「他にどこを見ていますか」という一言で、競争の中にいるかどうかがその場で分かります。
軸の当て方
当て方は単純です。「この相手を顧客にするとき、他社の提案と並べられるか」と問います。
並べられるなら、競争が要る側です。並べられないなら、競争が要らない側になります。
「並べられるか」は、相手の気持ちではなく状況を指しています。すでに候補を集めている相手なら、こちらの提案は必ずその一覧の中に置かれます。
この問い一つを、次の二つの章で両者に当てていきます。同じ問いを当てるからこそ、違いが打ち手の差として出てくるためです。
今すぐ買う人——最初から競争の中にいる
枠はもともと決まっていて、努力では広がらない
軸を当てると、この側は明確に競争が要る側に入ります。
理由の前に、この側の大きさを見ておきます。ある商品を必要とする人が、情報を集めて比べ、決めるまでの期間は、商材によって幅はあっても、その人の一生に比べればごく短い時間です。
一方、その人が「いずれ必要になる側」でいる期間は、はるかに長く続きます。任意の一日を切り取れば、検討中の状態にある人はごく一部しかいません。
この側が少ないのは、市場が小さいからではありません。検討という状態が、時間の上でごく短いからです。
人数の側からも、同じことが言えます。ある一日に検討中の人が十人いるとして、いずれ必要になる人はその何倍もいるはずです。検討期間が短いほど、この差は開きます。
それでも顕在客が市場の大半に見えるのは、反応した人だけが目に入るからです。問い合わせや資料請求という形で、こちらの画面に現れる相手だけを数えている状態になります。
だから、この枠は努力では広がりません。もともと決まっている大きさの中で、事業者どうしが取り合う形になります。
全員で取り合った先に起きること
この側の相手が集まる場所は、誰の目にも見えています。検索窓に打ち込まれる比較の言葉、比較サイト、資料請求の一覧。
見えているということは、競合にも同じように見えているということです。需要がはっきり形になった場所には、同じ提案が同時に集まります。
同じ相手を全員で取り合えば、選ばれる手段は限られます。行き着くのは価格の引き下げです。需要が誰の目にも見える市場ほど競争が激しくなり、利益率が削られていきます。
広告の側でも同じことが起こります。購入直前の言葉ほど入札が集中し、獲得にかかる費用は上がり続けます。参加する事業者が増える限り、工夫だけでは押し戻せません。
しかも、この競争から降りることは簡単ではありません。この側だけに頼っていると、費用を止めた瞬間に問い合わせも止まるためです。
もう一つ、この側には弱点があります。取引がその場限りで終わりやすいことです。一件で費用を回収して利益も残す必要があり、数字はどこかで頭打ちになります。
整理すると、こうなります。市場が小さいのではなく、いま動いている相手だけを需要と数えているために、需要が小さく見えているだけです。需要の定義を検討中の相手に絞るほど、枠は狭く、競争は激しく見えます。
いずれ必要になる人——そこでは競争が起きていない
競合の多くが、その時間帯を素通りしている
同じ軸を、もう一方に当てます。答えは反転します。
この側の相手には、他社の提案がほとんど届いていません。まだ検討していない相手は、売り込む価値が薄いと判断されるためです。
注意したいのは、これが人の種類を指す言葉ではないという点です。今すぐ買う人も、その前には長い時間、いずれ必要になる側にいました。同じ一人が必ず通る時間帯です。
競合の多くがこの時間帯を素通りするので、ここでは取り合いが起きていません。先に手をかけた事業者だけが、静かに関係を積み上げられます。
ただし、この側には代わりの難しさがあります。すぐには数字にならないことです。手応えが薄いぶん、後回しにされやすい性質があります。
三か月続けても問い合わせが一件も増えない、ということは普通に起こります。そこでやめると、積んだ分はそのまま消えてしまいます。
競争が無いのは、この難しさと引き換えです。誰も来ないのではなく、続けられる事業者が少ないから空いている、と考えたほうが実態に近いでしょう。
接触の順番を入れ替えた例
以前、少人数の講座を運営している方から相談を受けたことがあります。申し込みは入るものの、決まる前に必ず他社と比べられるという内容でした。
話を伺うと、その方が相手と最初に接触するのは、いつも申し込みフォームが送られてきた後でした。相手はすでに候補を並べ終えた状態で現れていたわけです。
そこで、接触の順番だけを入れ替えてもらいました。募集を出す前から、考え方や判断の基準を継続して届ける形にしたのです。
伝える内容は、以前から案内文に書いていたことと大きく変わりません。変えたのは届ける時期だけでした。
半年ほど続けたところで、届く相談の中身が変わってきました。「他社と比べてどうか」という質問が減り、「自分の場合はどう進めればよいか」に置き換わったのです。件数は目に見えて増えたわけではありませんが、相談の一件ごとが商談として重くなりました。
比べられなくなったのは、値引きでも宣伝でもなく、候補が並ぶ前に会っていたからです。
ここで一つ注意があります。信頼は一度の接触では生まれません。人は繰り返し接した相手に親しみを持ちやすいという傾向があり、続けることが条件になります。
もう一つ、接点の中身にも条件があります。売り込みの窓口にしないことです。
まだ買う気のない相手に案内ばかり届けば、受け取る側はすぐに離れます。届けるべきは、相手がいま知りたいこと、役に立つと感じることになります。
たとえば、月に一度だけ届くメールに、その月に多かった相談とその考え方を書く。それだけでも、相手の中では「この分野の話はこの人から届く」という位置づけができていきます。
売り込みを我慢しているのではありません。この時間帯にできるのは信頼を積むことだけで、それが唯一この側で意味を持つ作業だからです。
軸に当てると、自分の集客がどちらに寄っているかが出る
三つの質問で現在地を確かめる
ここまでの軸を、自分の事業に当てます。質問は三つです。
一つ目は、直近で決まった案件で、相手が他社の名前を出したかどうかです。
二つ目は、相手と最初に接触したのがいつかになります。申し込みや問い合わせを受けた後なら、すでに候補が並んだ後です。
三つ目は、まだ買わない相手に定期的に届けている場があるかどうかです。登録して継続的に受け取ってもらえる場が無ければ、この側には接点がありません。
結果ごとに、次にやることが分かれる
答えの組み合わせで、次にやることが決まります。
三つとも競争側に寄っていたなら、まず接点を一つ作ります。月に一度届けるだけの形で足ります。
ここで大きな仕組みを用意する必要はありません。登録してもらう場所と、月に一度書く時間。この二つがあれば始められます。
接点はあるが最初の接触が申し込み後なら、届ける時期を前に出します。案内の中身を変えるのではなく、出す時期を変える作業です。
他社の名前が出ていないなら、すでに競争の外側に立っています。その場合は、いまの接点の頻度を落とさないことが優先になります。
この判定は、月に一度見直せば十分です。案件が数件しかない段階でも、名前が出たかどうかは覚えているはずだからです。
両方を持つなら、選ぶのではなく時間差をつくる
ここまで読むと、どちらか一方を選ぶ話に見えるかもしれません。そうではありません。
今すぐ買う相手に応えないという選択はありえません。目の前の売上を捨てる理由はどこにもないからです。
やることは、両方を時間の軸に並べることです。今すぐ買う相手からは今日の売上を受け取り、まだ買わない相手とは明日以降の関係を作っておきます。
接点を先に持っておけば、その人が検討を始める日には、比べられる前に思い出される側に回れます。同じ相手に、時期をずらして二度会う形です。
二度目に会うとき、相手はもうこちらを知っています。同じ提案でも、初めて見る一枚と、名前を知っている相手からの一枚では、置かれる場所が違います。
順序をつけるときの目安も置いておきます。今日の売上を作る作業と、明日の関係を作る作業を、同じ日の中で分けることです。
両方を混ぜると、手応えの早いほうに時間が寄ります。すぐ返事の来る相手に応じているうちに、接点を届ける作業が後ろへ送られていきます。
もちろん、育てた関係のすべてが顧客になるわけではありません。それでも、競争のない時間帯で積んだ分は、競争のある時間帯での立ち位置を変えます。
総括:競争の有無を分けているのは、接触の時期
本稿では、顕在客と潜在客を一本の軸で比べました。その相手を得るのに、他社と取り合うことになるかどうかです。
今すぐ買う相手は、競争が要る側でした。検討という状態は時間の上でごく短く、枠はもともと決まっています。全員で取り合えば価格が下がり、獲得費用は上がり続けます。
いずれ必要になる相手は、競争が要らない側でした。競合の多くがその時間帯を素通りするためです。ただし、すぐには数字にならないという代わりの難しさがあります。
両者を分けているのは人の種類ではありません。同じ一人に、いつ接触するかという時期の差だけです。
現在地は三つの質問で分かります。他社の名前が出たか、最初の接触は申し込みの前か後か、まだ買わない相手に届ける場があるか。
今日できるのは、直近で決まった案件を一件思い出し、相手と最初に接触した時点を書き出すことです。それが申し込みの後なら、次に変えるのは案内の中身ではなく、出す時期になります。
競争を避ける確実な道は、同じ相手を奪い合うのをやめることではありません。同じ相手に、誰よりも早く会っておくことです。会う時期を変えるだけで、そこに競合はいなくなります。
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