市場リサーチと聞くと、専門の調査会社や高額なツールが要る作業に思えます。実のところ、個人が知りたいことは三つの場所を順に通すだけで手に入ります。ただし通す順番には意味があるので、本稿はその意味の説明から始めます。
この順で通すと言葉に確度が付く理由と、始める前に決めておくこと
一か所だけでは、たまたま一人が言った言葉と区別がつかない
まず、なぜこの順で通すのかを説明します。ここを飛ばすと、三か所を眺めただけで終わってしまうためです。
市場の悩みは、場所ごとに違う形で置かれています。検索窓には言葉になった悩みが、レビューには言葉になった不満が、質問欄には言葉になった不安が残ります。
ここで大事なのは、この三つが同じものの言い換えではないという点でしょう。悩みは検索窓に、不満はレビューに、不安は質問欄に集まりやすいという偏りがあります。
そして一か所だけを見ると、拾った言葉が本物かどうかを確かめる手段がありません。一人が書いただけの言葉と、多くの人が共有している言葉が、同じ顔をして並んでいるからです。
だからこの三つを順に通します。前の場所で拾った言葉を持って次の場所へ行き、そこでも同じ言葉が出るかを見る。
二か所で出た言葉だけを残せば、拾ったものに確度が付きます。これが、三か所を眺めるのではなく順に通す理由です。
もう一つ添えておくと、この作業で確度が上がるのは言葉であって、需要そのものではありません。言葉が確かでも、そこにお金が動いているかは別に確かめることになります。
手を動かす前に決めておく一語
手を動かす前に、決めておくものが一つあります。どの市場を見るのかを、一語にしておくことです。
「マーケティング」のような広い語だと、拾える言葉が散らばります。誰の悩みを見に行くのかが決まらないためです。
自分が扱う分野を、一語か二語まで絞ります。この一語が、三つの工程すべての出発点になります。
ここで決めておくもう一つは、拾わないものです。統計的に正しい数字も、市場の規模も、この作業では扱いません。
ここまでが前提になります。ここからは、三工程を順に見ていきます。
工程1:検索窓に打ち込まれている言葉を書き出す
なぜ最初にこれをするのか
前提が決まったので、三工程の一つ目へ入ります。ここが後の二つの出発点になります。
最初の工程は、検索窓に並ぶ言葉を書き出すことです。所要時間は20分ほどで、道具も要りません。
この工程を最初に置く理由は、ここで拾った言葉が次の工程の検索語になるためです。何を探すかが決まらないと、レビューをどこで探せばよいかも決まりません。
順序としては、こうなります。検索窓の言葉が探す場所を決め、探した場所での一致が言葉の確度を決める。逆からは組み立てられません。
具体的な作業は単純です。決めた一語を検索窓に打ち込み、下に出てくる候補をすべて書き写します。
あわせて、検索結果の下部に並ぶ関連の語も拾います。ここには、その語を打ち込んだ人が次に何を知りたがったかが残っています。
数は多くて構いません。この段階では絞らず、目に入った候補をそのまま並べます。
たとえば分野の語を打ち込めば、後ろに「やり方」「個人」「無料」といった語が続いて並びます。これは誰かが用意した仮説ではなく、実際に打ち込まれた記録です。
候補が多いときも、この段階では絞りません。絞る作業は次の工程が担います。
言い換えずに、そのまま書き写す
ここで守るのは一点だけです。出てきた言葉を、自分の言い方に直さないことです。
専門の語に置き換えたくなる場面があります。ただ、その置き換えをした瞬間に、市場が使っている言葉ではなくなります。
検索窓に並ぶのは、誰かに見られる前提のない言葉です。飾りがない分、そのまま見出しや商品の切り口へ転用できます。
書き写した言葉は、そのまま次の工程で使います。ここで書き写した語が、次に探す場所を決めます。
書き写す先も、表計算のような道具でなくて構いません。紙でも画面のメモでも、後から見返せれば足ります。
工程2:その言葉で低評価のレビューを探す
前の工程で拾った言葉が、探す場所を決める
二つ目の工程は、拾った言葉で低評価のレビューを探すことです。ここも20分ほどで足ります。
この工程が二番目にある理由は、探す先が前の工程から自動的に出てくるからです。書き写した言葉に関係する本や講座を検索すれば、対象はすぐ見つかります。
見るのは、星の少ないほうのレビューです。高い評価は商品の長所を教えてくれますが、満たされていない需要は書かれていません。
低い評価には、期待と実物のずれがそのまま言葉で残っています。「初心者向けと書いてあるのに、前提の説明がなかった」といった一文がその例です。
対象は本のレビューに限りません。競合が出している講座やサービスの感想欄も、同じように読めます。
具体的には、「初心者向けと書いてあるのに、前提の説明がなかった」といった一文です。ここから読み取れるのは、本当の初心者に寄り添った説明という需要が、まだ満たされていないという事実になります。
一人の声と、複数の声を分ける理由
ここで避けたいのが、目についた不満をすべて拾うことです。数が増えるほど、後で読めなくなります。
見るのは、複数の人が繰り返し書いている不満だけです。一人だけの声は、その人固有の事情であることが多いためです。
分けないと、次の工程で何を確かめればよいかが決まりません。拾いすぎた言葉は、三つ目の工程で全部を確かめきれずに残ります。
三つか四つに絞れば足ります。ここで絞った言葉が、次の工程で照らし合わせる対象になります。
読むときは、感情の言葉と事実の言葉を分けて眺めると見通しがよくなります。前者は温度を、後者は不足していた中身を教えてくれます。
工程3:同じ言葉が競合の質問欄にもあるかを確かめる
二つの場所で出た言葉だけが残る
二か所目までで、材料は揃いました。
三つ目の工程は、拾ったものをふるいにかける作業です。ここで初めて、言葉に確度が付きます。
この工程が最後にある理由は、照らす対象が前の二つで決まっているためです。工程2で絞った三つか四つを、そのまま持っていきます。
見に行く先は、同じ市場に向けて発信している人のところです。よくある質問の欄と、動画やSNSのコメント欄になります。
ここで確かめるのは一つだけです。絞った言葉と同じ内容が、質問としても現れているかどうか。
現れていれば、その言葉は残します。現れていなければ、いったん外します。
質問欄を見る利点はもう一つあります。何度も繰り返されている問いは、すでに整理された形で並んでいるという点です。
ここで残った言葉が、この作業の成果物になります。数は多くて五個ほどで足ります。
三つとも残らないこともあります。その場合は、工程1へ戻って別の言葉から拾い直します。
答え方のほうは見ない理由
見ないという判断にも理由があります。質問への回答まで読むと、拾う対象が答えのほうへ移ってしまうからです。
起きるのは、こういう形です。競合の答え方が的確に見えたので、その説明の仕方まで持ち帰ってしまう。
この持ち帰りは、リサーチではなく模倣になります。見るのは悩みの在り処であって、答え方ではありません。
答え方は、こちらのスタンスから出てくるものです。同じ悩みに対して、まったく違う答えを出してよいということでもあります。
そして、この見方をしておくと競合を見る行為の意味も変わります。真似をしに行くのではなく、市場の悩みを学ばせてもらう作業になるためです。
手が止まる場所と、そこからの戻り方
一つ目で言葉が出てこないとき
手順そのものは単純です。それでも実際に回すと決まった場所で止まり、止まった場所によって戻る先が変わります。
止まりやすいのは二箇所で、一つ目は工程1です。検索窓に打ち込んでも、候補がほとんど出てこないという症状になります。
この場合、決めた一語が広すぎるか狭すぎます。広すぎると候補が一般的すぎ、狭すぎるとそもそも候補が出ません。
見分け方は簡単で、出てきた候補が自分の分野の話に聞こえるかどうかです。聞こえないなら、一語を選び直すほうが早くなります。
戻したうえで、もう一度検索し直します。一語を変えるだけで、出てくる候補はかなり変わります。
三つ目で解釈を足したくなるとき
もう一つは、工程3で起きます。集めた言葉を見ているうちに、整理したくなる場面です。
これは自然な反応でしょう。ばらばらの言葉より、整理された一文のほうが扱いやすく見えるからです。
ただ、「要するにこういうことだろう」とまとめた瞬間に、市場の温度は失われます。残すのは、拾った形のままの言葉です。
見分け方は、書いたメモの中に自分が作った語が混ざっていないかを見ることです。混ざっていたら、元の言い方へ戻します。
一度通したあとに残るもの
市場が使っている言葉が、一枚のメモとして残る
一度通し終えたとき、手元には何が残るか。市場の規模でも競合の数でもありません。
前と後で何が変わるかを見ておくと、繰り返す理由にもなります。
残るのは、二か所で確認が取れた言葉が数個並んだメモです。多くても五個ほどでしょう。
この数個が、そのまま見出しや商品の切り口になります。ゼロから言い回しを考える手間が消えるという点が、この作業のいちばんの効き目です。
逆に、通さなかった場合に残るのは、眺めた記憶だけになります。同じ1時間を使っても、手元に残るものがここまで違ってきます。
残ったものは、次に何を書くかの材料になる
残るものはもう一つあります。次に確かめたくなる問いです。
この悩みを持っている人は、実際にお金を払っているのか。払っているとすれば、いまは何に払っているのか。
この問いが立てば、次に調べる先も決まります。言葉と問いの両方が残ることが、三工程を通す価値になります。
そして一度通せば、次は同じ手順を短い時間で回せるでしょう。市場の悩みは季節や流行で移るため、回を重ねる前提の作業になります。
回を重ねると、見るべき場所を選ぶ勘も育ってくるでしょう。最初は手当たり次第でも、次第に当たりのつく場所が絞られていきます。
拾った言葉は、そのまま見出しにも商品の切り口にも使えます。市場が使っている言い方をこちらが借りるほど、読み手は自分のことだと受け取ります。
そして、この作業には順番の意味がもう一つあります。集める前にリサーチを済ませるから、書くときに何を書くかで迷わなくなるという点です。
どう書くかの技術に悩む前に、何を書くかを市場から教わる。この順番を守るだけで、書く時間そのものが短くなります。
総括:拾うのは情報ではなく、市場が使っている言葉
本稿では、個人の市場リサーチを三つの工程で整理しました。検索窓の言葉を書き出し、その言葉で低評価のレビューを探し、同じ言葉が競合の質問欄にもあるかを確かめる。
この順序に理由があります。悩みは検索窓に、不満はレビューに、不安は質問欄に集まりやすいという偏りがあり、一か所だけでは拾った言葉の確度が分からないためです。
つながり方も決まっています。検索窓の言葉が探す場所を決め、探した場所での一致が言葉の確度を決めます。一つ前で拾ったものが、そのまま次で使う材料になります。
止まりやすいのは二箇所です。工程1で候補が出ないなら、決めた一語を選び直します。工程3でまとめたくなったら、それは解釈であって市場の言葉ではありません。
今日できるのは、自分が扱う分野を一語に絞り、検索窓に打ち込んで出てきた候補をそのまま書き写すことです。20分ほどで終わります。
書き写すときは、自分の言い方に直さないでください。専門の語へ置き換えた瞬間に、市場が使っている言葉ではなくなります。
一度通した後に残るのは、二か所で確認が取れた言葉が数個並んだメモです。そのメモがあるから、次に何を書くかで迷う時間が減ります。
次に読みたい記事——商品の需要の調べ方、見るのはお金の動き
言葉が拾えたとして、次に立つのが別の問いです。その悩みを持っている人は、実際にお金を払っているのかという問いになります。
悩みがあることと、その解決にお金が動いていることは別の話です。その確かめ方と、見るべき記録については、次の記事で詳しく扱っています。
